心理教育学科の教員として授業や学生指導、研究にと活躍された中道圭人先生は、今年3月で本学を退職され、静岡大学に移籍されました。そこで、在学生や卒業生の皆さんになにかメッセージをいただけないか、とお願いしたところ快くメッセージを送ってくださいました。以下、ご紹介します。
(T.Y.)
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心理教育学科在校生・卒業生の皆さんへ
中道圭人です。
新年度も始まり、新しい学年や新しい職場での新生活は少しは落ち着いたでしょうか。
私は今年の3月で常葉学園大学教育学部を去り、現在は静岡大学教育学部に勤めています。
一部の学生には事前に知らせましたが、多くの学生にはお話しすることもできなかったので、この場を借りて、皆さんへのメッセージを書いておきたいと思います。
・・・と言っても、何を書いていいのか迷ってしまったので、折角なので心理の話を絡めながら書いていきます。
発達心理学の中で「熟達の10年ルール」という言葉があります。
これはエリクソン, K.A.(アイデンティティのエリクソン, E. H.とは違います)等の熟達化に関する研究に基づく言葉で、簡単に言うと「ある領域のプロ(一流)になるには10年以上の訓練(練習)が必要だ」というものです。
たとえば、エリクソンら(1993)はドイツの一流オーケストラのバイオリン奏者、ドイツ最高の音楽学校でバイオリンの首席クラスの学生、同学校のそれなりに優れた学生、教育系大学で音楽教師を目指す学生を対象に、本人や親へのインタビューや日記等の情報を基に算出した人生での通算練習時間を比較しました。すると、20歳時点で、一流バイオリン奏者や首席クラス学生は通算時間が10000-11000時間であったのに対して、それなりに優れた学生では7000-8000時間、音楽教師を目指す学生では4000-5000時間でした。また、この4つのグループは8-10歳時点頃では通算練習時間はそれほど変わりませんでした。
つまり、10歳から20歳の間の10年間での練習時間が、成人してからのバイオリンのレベルに影響しているようでした。このエリクソンの研究をはじめ、音楽・スポーツ・数学などの様々な領域でこの10年ルールが確認されています。
もちろん、ただ闇雲に「10年練習すれば一流になる」というわけではありません。この他にも、「よく考えられた練習」(個々のレベル・特性に合わせた練習を行い、かつその成果をきちんとモニターすること)が必要だとも言われています(Ericsson et al., 1993)。しかし、いずれにせよ、これらの「熟達の10年ルール」や「よく考えられた練習」を見出した熟達化の研究は、人が一流になる(熟達する)上での基礎能力以外の部分の重要性を示しているといえるでしょう。
今、常葉学園大学に在籍している学生の皆さんは、ある領域(心理や教育関連などなど)での熟達者になるために必要な10年間の練習のほんの最初か、あるいは始まってすらいないかもしれません。同様に、私が知っている卒業生でもまだ10年間の半分に到達した位でしょう。「ある道の熟達者になる」ことは長い道のりです。大変なこと、辛いこともあり、「自分はダメだ」と思うこともあるでしょう。
そんなとき、この10年ルールでも思い出して、「10年たったとき、どうなっているかが勝負!!」と思って、少しでも前に進んでもらえたらいいかなぁと思います。
これからは所属は変わりますが、同じ静岡県内、どこかで会った際には声をかけてください。
ではでは。